それは本当に効率が良いのか

公開日 2022/06/22

昨今は効率というものが神格化されてきているような気がします。
かく言う私も、何事もいかに早く、上手に事を済ませるかは常に考えていますが、
一見「効率が良さそう」でも実際にはそうでないこともあります。
これを学習の観点から見てみたいと思います。

早く単語を覚えられるか

例えば英単語を早く覚えられる方法はあります。
基本的には思い出す回数を増やしたり、寝る前に勉強したりすればある程度効率よく覚えられます。そういった情報はすでに巷に溢れているので今回は書きません。
実行すれば確かに覚えられるのですが、この実行する側にある視点がしばしば抜け落ちており、それが長期記憶化です。
つまり、学校の単語テストなどの急場凌ぎにはなるのですが、受験対策として、さらには一生物の教養として身につけるには至らないのです。
ではどうするかというと、単語の場合は単語帳で勉強が終わってはいけません。
文章の中で何度も出会ったり、実際に経験してみてそれが少しずつ自分のものになっていきます。
例えば、
biomimetics (バイオミメティクス、生物模倣)という単語がありますが、オナモミからマジックテープ、カワセミから新幹線が生まれたことを知り、それを実際に見てみたり、より詳しく調べてみる、という過程を経ると忘れることの方が難しくなります。

問題の解法を忘れてしまう理由

数学をいくら勉強しても伸びない人は、目の前の問題を解くことだけに集中しています。
例えばテスト前に範囲指定してある問題をひたすら解いていくと思います。
確かに、高校までの定期テストや中学ではそれが通用します。
ほとんど見たことがある問題しか出題されないからです。
要するに上で書いた単語テストの勉強に似ているわけです。
完全にはわかっていなくても、とりあえず答えの出せる手続きを覚えていけばテストでは解答できるので、本人はその勉強したことがわかったつもりになっています。
1、2回解けばできるので、一応「効率」は良いのです。

しかし、これも単語と同じようにすぐ忘れてしまいます。
ではどのような勉強をすべきかというと、基本を理解することです。
わかりやすくするため例題を出します。

$$4^x – 5 \cdot 2^{x+1} – 24 = 0$$

この方程式を解くときに最初苦戦する人が多いのが、指数の処理です。
\(4^x \) を \((2^2)^x = (2^x)^2 \) と変換したり、\(2^{x+1} \)を\(2 \cdot 2^x \) と変換する必要があります。
このとき、この処理をそのまま覚えようとしていてはすぐに忘れてしまうか、または応用が効きません。
\((2^2)^x = (2^x)^2 \) という変形ができるのをしっかり理解するべきです。
例えば、\((2^3)^4=(2^4)^3\) と変形できることを試してみたり、\(\)
そもそも\(2^3=2\cdot2\cdot2\)であるから、
\((2^3)^4=(2^3)\cdot(2^3)\cdot(2^3)\cdot(2^3)=2^{12}\) と計算でき、さらにそれを一般化して
\((a^m)^n=a^{mn}\) が得られます。
指数法則を理解するわけです。

この一見「効率の悪そう」な勉強は、定期テストが終わった後も威力を発揮します。基本を丁寧に勉強しているので、すぐに忘れるようなことはありません。とりあえず問題を解くよりもむしろずっと効率が良いのです。

時間をかけてじっくりと

このような視点が蔑ろにされていないかが私の懸念するところです。
何でもスピード重視、効率重視で進めた結果、皮肉にもその逆の結果が生まれてしまいます。
手間暇をかけてじっくりと育てれば、その果実は大きく実り、土もまた次の世代を育む力を持ちます。手間を惜しむと、その果実は大きいかもしれませんが次の世代は育たないでしょう。
効率よく覚えたものは、効率よく忘れてしまうのです。